変わったものに目が輝く。幼いころ、誰しもそんな気持ちを抱いたことがあると思います。
「この場所、どんな所なんだろう?」「この遊び、やってみたい!」といった、純粋な好奇心です。僕にとってそれは、大人になるにつれて減っていってしまうものでした。
しかし、それを今でも心のど真ん中に持ち続けている人がいます。
J-GARDENのオーナー、石井良彦さんです。
ここは、昼はカフェ、夜は宿泊施設として利用されます。
門扉を通ると、ここはまるで別世界。
美しい庭と、南国の植物の香りに包まれます。
【この場所を始めようと思ったきっかけは何ですか?】
東京からこの地元に戻ってから、ダイビングが流行っていたことと、隣にマンションが建ったこともあって、30年前に、ダイビングで来た人とマンションのゲストが泊まれるような場所を作ろうと思った。それで、宿泊施設とカフェを組み合わせたようなこの場所を始めたんだよ。この庭は、石をもらって自分で貼った。
【この場所には南国の植物が多いですが、南国の植物が好きなんですか?】
南国の植物って、普段温室でしか育たないけど、ここでは地植えで育つんだよ。だから、好きというよりも、自分が生まれ育った城ケ崎はいいところだなと思って南国の植物を育てるようになった。南国の植物って難しいんだよ。気候が整わないとできなくて、大室山のほうに行ったら、ブーゲンビリアは育たない。
城ケ崎は、大室山の噴火による溶岩の大地でできたから、山と海に囲まれてて、特異まれなあったかい気候なんだよ。「ジェイガーデン」も、その溶岩を使って建物や庭を作ってる。城ケ崎の名前の由来わかる?
裏手にある山は天城の山だから、「城の先」で「城ケ崎」って言うんだよ。
俺はここで生まれて、ここのネイティブで、親から「城ヶ崎はあったかい」って教わってきた。
うちの何代も前の先祖の時は、ここは船の航路になっていて、定期的に船が来ていたから、それに乗せて、桃の花を送ったりしてたんだよ。ここの沖は黒潮が流れてて、車がない時代は、海の交通が今で言う東名高速みたいなものだった。それで、黒潮に乗っていけば、船なら1日で江戸に着くから、先祖が江戸に桃の花を植えてたんだよ。温暖な気候だから、城ヶ崎が日本で一早く桃の花が咲く。だから桃の花をここで育てて、それを切り花にして船に乗せて東京の遊郭の飾り窓にいち早く生け花してた。
昔は温室がない中で、一番早く春を迎えるのは城ヶ崎ってことを先祖が知ってたから、桃の花を育てて、それを出荷してたんだよ。
千葉の千倉ってところもあったかくて花を栽培してるけど、風が強いから花が傷みやすい。だから城ヶ崎で育った花には敵わなかった。親のずっと親の、明治の頃からそんなことやってたんだよ。
【石井さんが伊豆の気候に詳しいのは、先祖からの知恵なんですか?】
そうだよ。ここの気候だと何が育つか親から教わってきた。本に書いてあることは間違いのものもあるかもしれないけど、伝承されてきたものには嘘がない。
かつての縄文人が住みたがったのも、この城ケ崎なんだよ。厳しい環境の中、どこに住んだら生き残れるのかと言ったら、城ヶ崎。
例えば、ここは溶岩が流れ込んでできた地形だから、天城で降った雨がこっちに流れ込んできたときに、それが溶岩のフィルターを通って沖合から真水が湧いてくるんだよ。それで、沖合にはボラが住むようになった。(※)そして、そのきれいな水を飲んでるスズキやボラは普通のものとは全く違くておいしい。だから宮内庁の資料の中に、今でもボラは高級魚に入ってるんだよ。ここは天領(天皇直轄の領地)だったから、年貢も少なく、溶岩台地で米は無理だろうということで、その代わりにボラを年貢として納めていた。富戸に「ぼら納屋」ってあるのは、ボラを出荷してたからだよ。
(※)ボラは汽水域(淡水と海水が混ざる場所)に多く生息する
【そういう歴史を学ぶことは大切ですね。】
そう。俺たちの先祖は南から鉄を持ってきた部族で、昔から住んでる先住民だって伝承されてるんだよ。公には認められていないけど、かつて「ウガヤフキアエズ王朝」っていう古代王朝が存在したと言われてる。そのウガヤフキアエズ王朝が、九州、大三島そして三島を通って海から鉄を持ってきた。大三島も、「三島」と関係あって、三島は本来、「御島」って書くんだよ。
それは天皇家の由緒ある島って意味で、それを証拠にそれらの場所にはたたら(製鉄のときに出てくる不純物)が残ってるんだよ。
あと、伊東高校の歴史知ってる?
俺たちの時代は学生運動の一番過激な時代で、学校はロックアウト。俺はノンポリ(政治運動に関心がない)だったんだけど、伊東高校は先生たちが日教組の吹き溜まりのような高校だったから、それに感化されて学生の中にも政治運動が激しい人がいたんだよ。
川口大三郎事件っていう、学生運動の始まりのような事件も起きた。
川口大三郎は早稲田大学に行った俺の同級生。その彼が、中核派に間違えられて、革マル派に殺された事件なんだよ。
早稲田大学の先輩に村上春樹先生がいて、先生もその事件を知ってたから、「海辺のカフカ」って言う小説のモデルにもなってるんだよ。
【南国の植物って、特徴的なものが多いですよね!南国の植物は価値が高いんですか?】
過酷な条件で育つからね。雨が1ヶ月降らない場所で、水を蓄えることができるような作りになってる。
【庭は、南国風のイメージで作られたんですか?】
南国というか、多国籍だよ。
だから何々スタイルとかないよ。ヨーロッパとかではなく、俺のオンリーワン。ミスマッチしてるものもあるかもしれないけど、俺の独断と偏見で作った庭。
【ロートアイアンやこの場所もご自身で作られているということで、芸術関係の学校は行ってたんですか?】
行ってないよ、独自で学んだ。
先輩に鍛冶屋がいたことがきっかけでアイアンに興味を持った。それで、先輩に教わりながら、小学校の門扉とか料理屋さんの看板を、アイアンで作る作業を手伝うようになった。
前にバオバブも作ったんだけど、小さい枝を100個もつけて、溶接する時に保護メガネを一瞬外す時もあったから、目をやられそうになった。
今はアイアンでパキポディウムも作ってるよ。
【ロートアイアンは、どのくらいの期間やられているんですか?】
ロートアイアンは、30から本格的に始めたから、もう40年やってることになるね。
【アイアンの魅力はなんですか?】
アイアンの魅力は、錆びて、それを削るとオシャレになっていくところだな。例えばうちの門扉は「マハラジャ」って言うんだけど、それは100年前に作ったものと、今作ったものでは、同じものでも値段が10倍違うんだよ。100年前の方が高い。なぜかと言うと、100年も錆を落とし、ペンキを塗っていくと、丸みを帯びて、シルエットが女性的で優しくなるから。そういう鉄の風化、歴史を感じる門扉は高い。
門扉の中は空洞じゃなくて純鉄でできてるから、錆を落としても芯が残る。それに、「純鉄」って言って、不純物がほとんどない鉄で作るから、普通の鉄よりもずっと錆びにくい。だから100年経っても使えるんだよ。
普通のゲートは型に流し込んで作るのが多いけど、ロートアイアンは一本一本の鉄をハンドメイドで作ってるから、同じものはないんだよ。
【庭を作ったりロートアイアンを始めたりなど、やりたいことあったらすぐやるタイプですか?】
そうだな。笑
昔から実行あるのみで、間違って失敗してきたこともあるけど、とりあえずやってきた。
南国の植物が好きっていうか、そういう変わったものが好きなんだよ。笑 目が輝くからな。笑
「世の中にはこう言う変わったものがあるんだ!」っていう、発見が好きなんだよ。
【自分は躊躇っちゃうんですよね、、、】
普通の人は石橋叩いて渡るからな。普通はそうだよ。
【石井さんは自由な感じがしてめっちゃ羨ましいです。】
まぁ、がむしゃらというかさ、単純だから。
今はね、伊豆高原でネイティブな植物とか、ここの気候に順応できる南国の植物を育てて、お客さんに売ろうと計画してる。南方の植物で、伊豆高原がネイティブの植物もあるんだよ。今育ててるのは、神奈川から湘南まで分布している、モクレイシって植物で、種から出したり、お土産で売ったりしている。地方再生にもなる!
あとね、今、ある場所にブーゲンビリアを植えてきてるんだよ。
名付けて「花咲じじい計画」。ただ、いつもね、鹿とか猪にやられちゃうんだよ。笑
でも、いい計画だろ?笑 そこで何代にもわたって咲けば、「あそこのじじいが植えた」ってなるだろ。今、テーマにしてることだよ。
あとね、友人から「パキポディウム」っていう、マダガスカルの木に預かることになったんだよ。「パキポディウム グラキリスとの別れ」って調べてみな。カッコいいだろ。
今にブームになる。高いやつは50万円もして、それのブリーダー(種から育てる人)もでてきてる。種まいて育てるとお金になるから、日本名で「恵比寿笑い」って名前がついてるんだよ。笑
【やられていることがすごい面白いですね!】
殺風景な空き地に、花一輪がさけば綺麗だろ。そういうの面白いと思うんだよな。
【石井さんが、やりたいことをそのままできるのはなんでですか?】
満たされてないからだと思うよ。人生を語るには修行が足りないし、まだまだやりたいことが沢山ある。一生修行だと思ってる。ボケちゃいられないよ。そんな暇がない。笑
外の世界に出てもいいし、この伊東にいてもいい。だけど、いつも自分を見つめ直すことが必要なんじゃないかな。そうすれば、生きてて、なんか「これだ!これが一生のテーマだ!」って巡り会う日が来る気がするな。焦ることはないよ。
今俺のテーマは「花咲かじじい計画」だよ。笑
【インタビューを終えて】
幼いころの童心を何十年経った今も変わらず持ち続けているような方で、話を聞いていると楽しくてつい笑顔になってしまいました。「花咲かじじい計画」は、聞いた瞬間にすっっごくワクワクしました。
そして、その童心を持たれている石井さんは、本当に輝いて見えます。
僕の中にも、もちろん好奇心はあります。
「これ、面白そうだな」「これ、やってみったいな」など。
しかし、それをいざ行動に移すとなると、大人になるにつれて「好奇心」が「めんどくささ」や「危険性」に変わっていき、「時間がない」「どうせ自分じゃ無理」など、何かと理由をつけてためらってしまいます。石井さんの言っていたように、失敗してもいいんだと思います。
やってみてダメだったら、次に移る。そう考えていれば、どんな選択をとる時も、少し気持ちが軽くなるかもしれません。
最後に、「焦ることはない。」という言葉をくださったことが印象的でした。
自分のペースで、楽しく生きる。そんな姿勢を、石井さんから感じました。
石井さん、ありがとうございました!
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