伊東市地域おこし協力隊、荒武悠衣さん・末宗奈穂さん

話しているだけでつい笑顔になってしまう、姉妹のような2人。伊東市地域おこし協力隊の荒武悠衣(あらたけ ゆい)さんと末宗 奈穂(すえむね なほ)さんにインタビューさせていただきました!

このお2人は、2020年4月から伊東市で地域おこし協力隊として着任。伊東市の魅力発信とロケ支援をされています。荒武さんは香川県、末宗さんは千葉県出身。縁もゆかりもなかったこの場所で、伊東市の職員として働く現在の思いや今後について、お話をお伺いしました。

(左:荒武さん、右:末宗さん)

現在の仕事内容

普段の仕事はどのようなことをされていますか?

荒武:私たちは、市役所の中と外を半々くらいで仕事しています。日によってずっと市役所の中で事務をしている日もあれば、1日外に出る日もあります。

地域おこし協力隊は、特定の事業に取り組む「ミッション型」と、自分で自由に取り組む「フリーミッション型」に分かれていて、私たちはミッション型です。 

末宗:その活動内容は2つです。1つは情報発信事業、もう1つはロケの支援事業です。ただ、ロケ支援については、コロナの影響で12月に入ってから一旦受入れをストップしています。

それまでは、制作会社の人から「今こういうロケーションを探しています」という依頼が来た時に、私たちが希望にあった場所を探して提案してました。それで、相手方が興味を持ったら現地を案内したり、実際に撮影する際にはお店の方とのスケジュール調整などをしていました。

着任当初から長く続けているのは、1つ目の情報発信ですね。

荒武:お店を取材、撮影して、それを編集して特集としてホームページにアップしています。 ホームページもぜひ見てください!

 Twitter もこの前から活用し始めました。 Facebook もやってます。Instagramのフォロワーは、活動を始めてから1200人以上増えていて、今の目標はフォロワー5000人です。

2人は協力隊で偶然出会ったんですか?姉妹感があって、仲がいいなと思いました!

荒武:偶然ですね。姉妹みたいっていうのはよく言われます。笑

年上だと気を遣ってしまうことあるじゃないですか。私は働く前に末宗さんが年上だと知っていたので、「どうしよう」と思ってたんですけど、こんなほわほわした人が現れて、「良かったー!」って思いました。そこは本当に良かったです。

末宗:お互いパートナーに恵まれましたね。笑


地域おこし協力隊になるまで~なってみて

末宗さんが地域おこし協力隊になろうと思った理由は何ですか?

末宗:私は、以前は新潟県内でも地域おこし協力隊をやっていました。空き家を改修してゲストハウスにするというプロジェクトに惹かれて応募したのですが、資金や相続の問題で中止せざるを得ない状況になってしまったんです。

私はこのプロジェクトに参加するために仕事を辞めて移住したので、不完全燃焼で終わってしまい、落ち込みました。そして、やりたいことができないのにここにいるのは嫌だと思い、協力隊を途中でやめたんです。

その後は喫茶店で働いていたのですが、このまま飲食業で働くか、もう1度観光やまちづくりに携わるか悩んでいました。 しかし、昔からまちづくりに興味があったので、もう1回リベンジしようと思って協力隊の募集を探し、ここに来ました。

伊東市を選んだ理由は何ですか?

末宗:私は仕事内容と直感で伊東市を選びました。去年の1月からいろんな地域の観光協会を中心に面接を受けていて、伊東市には3月の面接日に初めて来ました。その時に、この穏やかな暖かい気候とのんびりした感じが自分に合ってるなと感じ、「あ、ここだ」って思いました。

 もう1回外に出て、地方の全く知らない場所で1からやりたかったんですよね。実家(千葉)からも程よい距離で、何かあった時には帰れるので、そこも伊東を選んだ理由です。

まちづくりに興味を持ったきっかけは何ですか?

末宗:父の影響が一番強いです。父は長年、国家公務員として地方創生に携わっていました。それでいろいろ話を聞いていたので、高校生のときからまちづくりに興味を持ち始めました。

大学では経済学部だったのですが、在学中や留学期間中には専門分野だけでなく、他学部の都市計画の授業を受けたりしていました。

まちづくりでは具体的にどのようなことに興味がありますか?

末宗:「場づくり」に興味があります。大規模なものではなく、地域の人が気軽に立ち寄ることができるような空間を作りたいです。地元の人が、自分の地元を好きになるきっかけを作れたらなって思ってます。地域資源を活かすというよりも、自分自身が地域に溶け込んで、人と人を繋げるという方向ですね。

荒武:なほさんは輪を広げたいっていうことはよく言ってますよね。

末宗:新潟にいたときに感じたんですけど、「地域おこし協力隊」っていう名前だから、色んなことができる人って思われがちなんですよね。でも、移住してその土地のことをまだ知らない人間が、すぐに力を発揮できるわけではないんです。そしてその期待に応えようとすると私自身もすごい窮屈になるし、結局大きなこともできないとわかりました。だから自分のできる範囲で、小さなところからでも輪を広げていき、私たちに会って「楽しいな」とか「 こんな子達が移住してきてくれてよかった」って思ってもらえるようなささやかな喜びを生みたいと思っています。

そのような目の前の小さな視点を持てるのはすごい素敵ですね

末宗:結局大切なのは、人と人だと思うんですよね。人と仲良くなって信頼が生まれることで、やっと、私と荒武さんで何かを始めるって時に支持してもらえると思うんです。誰にも知られていないのに、「こういうことやります」と大きなことを言っても、応援してもらえません。だから地道にやっていこうと思ってます。

荒武:私たちは最長で3年間協力隊として活動するんですけど、2年目くらいでやっと「こういう人たちがいるんだ」ということを知ってもらえて、3年目から徐々に活動を広げていくことができると思っています。そして、任期が終わってからさらに何かをしようと考えているので、この3年はその準備期間ですね。

荒武さんが地域おこし協力隊になったきっかけは何ですか?

荒武:私は、東伊豆町の協力隊をやっていた旦那と出会って、地域おこし協力隊という制度を知りました。 それで話を聞いて興味を持ちながらも、飲食店で働きたいという思いもあり、その時は頭の片隅に地域おこし協力隊があるという感じでした。 でも、コロナで 飲食店の職種の募集はなくなってしまい、その時に、「サバーソニック&アジロックフェスティバル」の関係で旦那と知り合いだった観光課の上原さんが協力隊の募集について紹介してくださり、応募しました。 

伊東に移り住んでみて、今まで住んでいた場所と比べて不便さは感じませんでしたか?

荒武:車があるので基本どこにでも行けるけど、それでも買い物するところが少ないところに不便さは感じますね。

末宗:確かに、 生活用品は揃うけど、映画館とか娯楽施設もないもんね。

荒武:服屋さんも雑貨屋さんも少ないですよね。

伊東市役所の人と関わってみて、どんな印象がありますか?

荒武:ミッション型といえど私たちの意見をちゃんと聞いてくれて、好きなことはやらせてもらっているなと思っています。

荒武:上原さんはすごく話を聞いて下さいますよね。

末宗:そうだね。課長も聞いて下さいます。私達の事をちゃんと受け入れてくれているというのが伝わってくるよね。

荒武:課長は、同じ飲み会の席でも隣に座ってくれて、「仕事楽しい?」とか聞いてくれたりするので、ここに来てよかったなぁって思います。

末宗:ありがたいことに可愛がってもらってるね。 人に関しては恵まれたよね。

荒武:恵まれました。みんないい人。


伊東の好きなところ

末宗さんの伊東市の好きなところはどこですか?

末宗:都会と田舎の間の絶妙なバランスを保っていて、ちょうどいいところですね。伊東は少し足を伸ばせば神奈川や東京に出ることができます。それにちゃんと買い物もできるし、子育てをする環境もあると思います。

気候も穏やかだし、人口も少なすぎず、全部が本当に私にとってちょうどいいんですよね。のんびりしているところも好きだし、どこからでも海が見えるところも好きです。

都会はあまり好きではないですか?

末宗:都会はもちろん好きですし、楽しくて刺激もあります。でも、都会はたまに行くからこそ楽しいと思うようになってきました。

自分の性格的にも、つい人と自分を比べてしまいがちで、東京でバリバリやっている人を見ると、自分がちっぽけに思えてしまうんです。最近はようやく自分の生き方に自信を持てるようになってきました。こうやってのびのびと生きていられているので、心は腐らないなって思っています。

荒武さんの伊東の好きなところはどこですか?

荒武:やっぱり自然は綺麗ですね。運転しながら海を見ることができるのは、素敵だなと思います。出身の四国にも似ているので住みやすいです。

おすすめスポットはありますか?

荒武:1つは一碧湖です。あともう1つは、赤沢の日帰り温泉館から下田方向へ抜けていく国道を走っているときに、ひらけていく海の景色がめっちゃ好きです。 

船が何隻か浮いていて、左側は伊東の街が少し見えて、右側に小さな岩がある、その景色が好きです。あんまり歩いてる人はいないので、車でしか見れない景色なのかなと思います。

(手前:赤沢方面、奥:下田方面)

変えたいこと、やりたいこと

逆に、伊東の中で課題だと感じるところはありますか?

荒武:道路が山道が多くて、カーブが多かったり、渋滞が多かったりするので、そこがもう少しスッキリしたらいいなって思います。

あとは、山があるので電波が悪いです。また、コロナが落ち着いていた時期でも、夜になるとすぐお店が閉まって街が暗くなってしまうのも課題だと思います。

末宗:私は、なかなか解決できない課題だとは思っているんですけど、駅前の寂しさですね。

荒武:商店街にせっかく七福神のお湯かけの場所があるから、それをもっと PR したいですよね。

末宗:制作会社の人に案内すると、大体の人があのお湯かけをするんですよ。みんな面白がってるもんね。

荒武:「これはいけるよ」って制作会社の人が言ってたので、もったいないなと思います。

末宗:あそこから普通にあったかいお湯が出てるっていう事に感動してるんだよね。

荒武:そうそう。制作会社の人たちは、私たちが思っていないようなところを見ていて、湯の花通りの「杉養蜂園」の近くにあるちょっとした階段も、「ここ撮影に使えるな」って言ってました。 

末宗:制作会社の人たちはそういう路地裏を求めてるよね。

荒武:その点で伊東は良いって言いますよね。

末宗:そういう魅力もある観光地なのに、駅前が今の状態だと寂しいです。せっかく駅周辺に宿泊施設が集まっているのに、開いているお店は少ないですよね。

設備や必要な道具などを用意して開業の負担を減らしてあげれば、出店する人が増えると思うんです。場所を貸し出すだけだと、設備を準備するハードルが高くなって、チャレンジする気持ちが失せてしまうので、そういう気軽にお店を出せるような仕組みは必要だと思いますね。

荒武:あと、伊豆高原は個人で芸術や、おしゃれなカフェをやっている人が多いので、もっと開拓していきたいです。伊豆高原でやっているフリーマーケットを伊東駅周辺の市街地でもやれたらいいなって思いますね。たくさんアート関係の施設があるので、それがもっと前に出ていってほしいです。

伊東市ってレトロな雰囲気を感じるので、それに合ったようなお店が増えるといいなって思います。

末宗:そういう思いもあり、自分たちでも何かやりたいんですけど、仕事との兼ね合いもあってどうしてもイベントとして立ち上げることができず、もどかしさを感じます。

荒武:地域おこし協力隊の制度も、前住所の人口の方が多くないと、その自治体の協力隊になることができなくて、それがまず間違ってると思います。例えば、香川は田舎ですけど芸術がすごい有名で、瀬戸内の島で国際芸術祭を開くんですよ。人口で判断しないで、そういう部分を学んで取り入れられたらいいのにと思います。

末宗:言葉にするのは難しいですけど、変に近代化して、伊東ならではのゆったりな時間とか、昭和の香りが残る感じをなくしたくはないですね。でも、何か新しいことも始めていかないといけないとは思います。

荒武:やっぱり若い人がいないと廃れていってしまうし、できないことも多いなと思います。だから、私はもっとファミリー層が増えたらいいなと思います。

末宗:2、30代の人が増えて欲しい。

荒武:その年代に向けてインスタも発信してますもんね。インスタでは、「応援してます」っていうあったかいコメントをもらいます。この前インスタライブした時も、3人来たら充分と思っていたのに、たくさんの人が来てくれました。

末宗:リアルタイムで300人以上、アーカイブで1700人以上が見てくれました。批判的なコメントは1個もなかったよね。「自分達も移住組です」って共感してくれる人もいました。 

コロナがなかったらもっと交流したいよね。

荒武:したいです。今の状況だとなかなかできないけど、私はおじいちゃんやおばあちゃんと関わって、その人たちのファッションを撮りたいなとずっと思ってます。普段着でも畑仕事の服でも、かわいいじゃないですか。おじいちゃんおばあちゃんには長生きして欲しいし、 SNS に投稿して、「『いいね』がいっぱい来てますよ」って言ったら絶対喜んでくれると思います。ありきたりな投稿じゃなくて、ちょっと伊東市変わってるよねみたいなことをしたいです。

あと、おじいちゃんおばあちゃんって、歴史とか気候をよく知ってますよね。

末宗:だから「自然歴史案内人」もあるんだろうね。知恵がすごいよね。

荒武:確かに。案内人ももっと活かしたいですよね。一緒に歩いたときすごい楽しかった。観光客のセットで案内をつけて、伊東の歴史とか気候を教えてくれたら面白いと思います。

末宗:「名物おじいちゃん」とか呼ばれたら励みになるよね。お店の取材してても、まだまだ現役っていう方がいっぱいいて、(いい意味で)癖が強い人が多いよね。

荒武:みんな夢あるしかっこいいですよね。話を聞いていたら私たちも頑張らないとなって思います。この前 tiktok で見たんですけど、コンビニ店員のおばあちゃんがゆっくり仕事しているのを見て、ヤンキーのお客が「このおばあちゃんだったら許せる」って言っていたんですよ。ヤンキーでさえもそう言うんだから、そこを突いていったら面白いなぁと思います。

末宗:接客業でおじいちゃんおばあちゃんしかいないお店とか面白いかもしれないね。

荒武:面白い!メニュー間違えても許したくなっちゃいますよね。

最後に、今後やっていきたいことや目標があれば教えてください!

末宗:協力隊としての目標は、インスタのフォロワー1万人超えです。そして伊東市のファンを増やしたいです。

荒武:それで私達の名前も覚えてくれたらいいですよね。フォロワーは数で表されるので、それが具体的な目標としては一番ですね。

末宗:二人とも今は最長3年間という形で仕事してますけど、結局その後が本番だと思っています。

荒武:私めっちゃ夢あるんですよ!夢ありすぎて困ってます。 イルカの調教師にもなりたいし獣医さんにもなりたいし、カフェ開きたいし、美容師になりたいしいろいろある。

それと、モノづくりが好きなんです。なので、まずは今後自分が作ったモノを販売できたらいいなと考えてます。

末宗:私は、コミュニティスペースを作りたいと思っています。音楽と読書が好きなので、そこに本が置いてあって、伊豆の環境に合った音楽が流れていて、お茶も飲めて、観光客の人も地域の人も気軽に立ち寄ることができるような場所を作るのが目標です。今の活動は、そのための人脈作りや、伊東という場所を知るための3年間だと思っています。

協力隊の任期が終わってから1から始めようとすると、職もお金もない状態になってしまうので、今こうやって職を与えてもらっているうちに土台を作っておきたいです。そして、伊豆で活動し続けたいというのが二人の気持ちです。 


インタビューを終えて

この伊東市のことを、本当に想って仕事をされているということが伝わってきました。

話をする中でも、「もっとこうしたほうがいいよね」「これやりたいよね」という考えが次々に出てきました。「商店街が寂しい」という話は、伊東市民であれば誰でも耳にしたことがあります。一方、それを具体的にどうしたいかという話は、特に若い世代であるほど話す機会は少ないのではないでしょうか。

でも、2人は日常的に制作会社の人と関わり、自分たちで街を歩いてインプットする中で、「七福神のお湯かけをもっとPRする」とか「お店を出す人を支援する」という、具体的解決方法を考えています。また、情報発信というミッションを与えられている中でも、「フォロワーを1万人まで増やす」ということを目標にされています。

このような、「じゃあ、具体的にどうするのか?」ということを考え、自分事として落とし込むかどうかで、仕事の質は全く異なるものになるんじゃないかと思いました。

また、2人の明るい雰囲気と、バランスのとれた関係性が印象的でした。市役所内では聞けないような勢いのあるトーンで、思ったことをそのままぶっちゃける荒武さんと、それを笑いながらたしなめる末宗さん。話を聞いているとすがすがしく、そして新鮮で面白くて何度も笑ってしまいました。

軸のある考えと、人に愛される雰囲気を持った2人で、勉強になった上に元気ももらえました。荒武さん、末宗さん、ありがとうございました!! 

タイトルとURLをコピーしました