「ありがとう」の気持ちをいつまでも。「鉄板 あみ焼き 奏」木村豊さん

「ありがとう」という気持ちを、決して忘れずに大切にするお店。

「鉄板 あみ焼  奏(かなで)」を経営している木村豊さんにインタビューさせていただきました。木村豊さんは、京都出身。12年前から約3年間伊東で働き、そこで知り合った人たちへ恩返しがしたいという思いから、一度伊東を離れた後、2019年10月にお店をオープンしました。

お店は、なんと深夜2時まで入店可能。2件目、3件目に立ち寄ってもまだまだ楽しむことができます!

妻 明子さんにも入っていただきながら、お店を経営される中での思いをお伺いしました。

木村豊さん(左)と明子さん(右)

このお店を始めるまでの経緯を教えてください!

豊さん:出身の京都にいたときに、地元で何をやってもうまくいかない、良い方向に向かわないという年がありました。その中で、この方角に移動して行動を起こすと良い結果が生まれるという方角を占いで知って、地図を見たときにその方向にあったのが、伊豆半島の伊東だったんです。近畿圏内なども延長線上にありましたが、近場に移動しようとは思わず、伊東を選びました。

そして、その方角に行くための仕事を探していたら、ホテル従業員の募集がありました。伊東での勤務を希望したのですが、箱根や伊豆を中心に展開している会社だったため、最初は箱根湯河原の勤務になりました。それでも、とにかく1日でも早く伊東に行かないと、自分の運勢が開かないと思って、ずっと会社に交渉し続けたら、すぐに伊東のホテルで仕事をさせてもらえることになりました。

住んでみたら居心地が良くて、1年くらい働くと周りの人が「外のお店も行ってみたほうがいいよ」って言ってくれて、八幡野のお店に行ってみることにしました。すると、そのお店で地元の人達と仲良くなって、「新しくお店をやりたいんだけど、飲食店経験ないから、やってくれない?」という話をいただき、「一番星」というお店をやることになりました。そこは12年前に始めて、3年弱続けましたね。 

 自分が「一番星」を辞める時には、そこで知り合った人たちが「またお店をやってほしい」 と言ってくれました。それからは、ここで知り合った人・お世話になった人に、なんとか自分も力になりたい、恩返ししたいと思い、お店を始めるお金を貯めるために6年働き、この場所でお店を出しました。

お店の内観

ー伊東のどういった点に居心地の良さを感じましたか?

豊さん:一番は「人」に感じましたね。外から入ってきた自分たちに対して、よそ者扱いせずに歓迎してくれて、優しくも厳しくもあり、人らしい接し方をしてもらえました。色々な形でお世話になった人がたくさんいて、自分はここにいてもいいんだなと思えました。

特にこの伊豆高原は、色んな場所から色んな人が来て、 それぞれのスタイルで自由に生きています。それをお互いが批判することもなくて、そこに面白さを感じるしやりやすさを感じますね。そして、そういう場所だからこそみんなにも来てほしいと思っています。

伊豆や伊豆高原の人たちは温かみがあります。周りの飲食店の人たちは、お客さんを紹介してくれたり、自分のお店が終わったら来てくれたりなど、同じ飲食店の自分に対しても応援してくれるんですよ。この伊豆に来るまでに日本全国色々な所に行ってきましたが、こんな場所、他にはめったにありません。

ー鉄板とあみ焼きの料理にしたのは最初の「一番星」での経験がきっかけですか?

豊さん:あみ焼きは、「一番星」のお店で初めて経験しました。鉄板料理は、京都にいた時に経験していたので、それもやりたいと思って、あみ焼きと鉄板両方やるような形をとりました。

ー今は18時から深夜2時(最終入店)までやられていて大変だと思いますが、深夜まで営業されている理由は何ですか?

豊さん:以前ホテルに勤めていた時、勤務が終わるのは夜の11時や12時だったんですよ。周りの同業種の人たちも同じで、早い人で10時、遅い人で深夜2時まで働いていて、その後に行く店がないという声をよく聞きました。そのことから、 深夜でも食べられるお店があるかどうかは、住む場所を選ぶきっかけの1つになると思ったんです。それで、たとえ1件でもお店に明かりがついていれば、夜遅くまで働いた人でも来てもらえるのではないかと思い、深夜まで営業することにしました。また、外から働きに来ている人に、「伊豆って何にもなかったよ」と思われたくないし、伊豆に1日でも長くいて欲しいという思いもあります。

実際、「一番星」でお店をやっていた時も、夜中の方がお客さんが多い状況が結構ありました。今のお店でも、周りのお店の人たちが終わってから来てくれたりして、夜中のお客さんの方が多いですね。

なので、深夜2時までやるということさえ守っていればお客さんは来てくれるだろうと信じて続けてきて、うちは正解だったかなと思います。今は、コロナの影響でお客さんが減り、深夜までやっているお店はほとんどありませんが、うちの場合はそこを変えてしまったらお客さんが来なくなってしまうと思っています。

ーお店を「奏」という名前にした理由は何ですか?

豊さん:妻と2人で名前を考えていた時に、「奏」という文字には、演奏の「奏」で音を奏でるという意味だけでなく、「夢を叶える」という意味もあることを知ったんです。

それで、自分と妻の2人でやるお店だし、お客さんがあってのお店なので、妻やお客さんと共に奏でてお店を作り上げたいという思いがあったので、その思いが叶ってほしいという意味を込めて「奏」という名前にしました。 

ーお店で着ている T シャツの後ろに「 ありがとう」 という文字が入っているのですが、それもお客さんに対する感謝という意味合いが込められているのですか?

豊さん:そうですね。ただ、「感謝」って書いてある T シャツは固すぎると思いました。感謝の気持ちを表現するとき、相手に対して「感謝」とは言わないじゃないですか。お客さんに来ていただいて、飲んだり食べたりして楽しんでもらっていることに対しては、「ありがとう」という思いしかありません。

自分の子供にも「『ごめんなさい』と『ありがとう』は忘れるな」ということを小さい時から言っていいて、「ありがとう」 という言葉は自分の中で絶対に外せないものです。だから、お客さんに自分たちの気持ちを伝えるために「ありがとう」という言葉を背中に入れています。

ーお店を出される時にお2人の間に意見の相違はありませんでしたか?

豊さん:相違というか、僕の考えと僕の気持ちだけが先行していたので、そこに妻に協力してもらっていた形で、妻の意見は何も聞きませんでした(笑)。 

明子さん:でも反対もしなかったよね。反対する理由もないし。

豊さん:一緒にやってくれるか聞いたら賛成してくれたので、そしたらもう「やるって言ってくれた以上はやってくれないと困るよ」みたいな感覚でいました(笑)。そんなに揉めることはありませんでしたが、もちろん収入は安定したほうが生活に心配はないから、妻はお店を出すことに不安な気持ちもあったと思うんですよ。

ただ、「一番星」を辞めてから働いていた6年間、以前のお客さんたちから、ずっとメールや電話で「早くお店やってよ」「早く帰ってきてよ」という声をいただいてきました。「たまにはおいでよ」という声もかけていただき、顔を合わせる度に、みんなが「いつやるの?」「もう帰ってきた?」と言ってくれました。だから、妻も「お店やったほうがいいのかな」「続けられるんじゃないかな」と、僕と同様に、この場所でお店をやる意味を感じ取ってもらえたと思います。

明子さん:うちの人は、やるって決めたらやるんです。諦めないので。それは知っていたし、それなら一緒に応援して一緒にやろうって思ったから、 不安はなかったです。今までも、「やる」って言ってやらなかったことはなかったし、やれなかったこともありませんでした。

今は、年齢関係なく、お店をやってよかったなって思っています。

ー奥さんに助けてもらう場面は今まで多かったですか?

豊さん:そうですね。特に僕はお金を貯めるのは下手なので、そこは丸投げです。

妻じゃなかったらお店ができるまでお金が貯まらなかっただろうし、妻もやりたいことがたくさんあっただろうけど我慢して全部カバーしてくれて、本当に「ありがとう」という気持ちです。

お2人は良いバランス関係ですね!

豊さん:それは自信を持って言えます。四六時中一緒にいても平気だし、未だに、大ごとのように揉めたことがありません。お客さん含めて周りの人から「本当に仲いいよね」とよく言われます。プライベートでもそれぞれ好きなことを出来ていますね。

 特に妻は、お店を出す前の6年間、ダイビングが好きなのに一回も行かずに我慢して働いてくれたので、今は行きたいときに行ってストレスを発散してくれたらと思っています。自分はあまりストレスを感じないので大丈夫なんですけど、妻はこういう商売をやりながらの生活は初めてなので、多少のストレスはあると思います。

最初の頃は特に大変だったと思います。深夜2時までは絶対閉めない、お客さんが帰るまでは「帰ってください」と言わないと自分が決めているので、一番長くて朝の8時ぐらいまで開いていたこともあって、妻にとってはかなりきつかったと思いますね。

今はさすがに、2時ギリギリに来たお客さんには「朝5時を目処にしてもらえたら助かります」と声をかけています。

ーお店をやる中で楽しさ、やりがいを感じる時はどういう時がありますか?

豊さん:美味しいと言ってもらえることと、美味しいという表現をしてくれることに対しては、喜びを感じて、やって良かったと思います。

特に、メニューの名前は覚えていなくても「この前食べたあれちょうだい」って言ってくれるのはすごく嬉しいんですよね。

明子さん:あとは、一回食べて、 その後友達を連れて来てくれて、その友達がまた別の友達連れてきてくれて、「これおいしいよ」ってその友達に教えているのを見ると嬉しいですね。友達と一緒に来ていなくても「あの子に教えてもらって来た」「友達から聞いてきた。これ食べたい」と言ってもらえることもあります。

豊さん:そういう風に伝わって来てくれる人は多くて、東伊豆町や稲取・河津の人たちも、月に1,2回来てくれます。市街地から来てくれることも多いですね。

最近はコロナの影響でそういったお客さんは少なくなって顔を見られないのは残念だけど、若い人たちや東京に行っている人たちから、「コロナが収まったら行きます」「帰ったら行きます」という言葉を頂いているので、それが励みになるし、喜びにも感じてます。

この前は、ある男の子が、誕生日だからと言ってお母さんを連れてきてくれました。お母さんが何食べたいかと聞いたら、「奏に行きたい」って言ってくれたそうなんです。うちのお店を知ってくれているだけでも大感激なのに、その上さらに来てくれたので、テンション上がりまくりでした(笑)。誕生日にお母さんとご飯を食べに行くということ自体が嬉しいし、その選択肢として一番に奏が出てきたのがすごく嬉しかったです。

今までの中で指折りの嬉しさに入りますね。やっててよかったと思いましたし、お店を頑張って続けられると思えた瞬間でした。

ー人との繋がりが強いですね。

豊さん:そこは自分が伊豆にいたいと思わせてくれた理由なので、自分もそれを伝えていきたいと思っています。伊豆を一回離れて離れた人が、「やっぱり伊豆に」と思って戻ってきたら嬉しいです。

確かに伊豆は仕事が少ないから若い人たちが居着くのは難しいけど、「仕事がないから」と言っていたらいつまでも変わりません。僕は、人がいるからお店が増えるとは思っていなくて、お店があるから人が増えると思っています。お店が増えていくと人が集まってきて、仕事も増えて、住んでいる人も楽しめるようになると思います。

ーメニューが豊富だなと思ったのですが、お店でのこだわりや工夫している点はありますか?

メニューの内容にはこだわっていなくて、一番のこだわりは、とにかくお客さんに喜んでもらうということです。なので、それができれば何でもありかなと思っていて、お客さんが「食べたい」と言ったものは、メニューになくてもできるものは作ってしまいます。忙しい時だったら作れないけど、その辺はみんな分かってくれていて、お客さんが少なくて余裕があるときのリクエストはけっこう多いですね。

鉄板・あみ焼き以外の料理を出すこともあって、その中で定番になったものもありますよ。例えば「あんかけチャーハン」「カキフライ」「粕汁」は、お客さんの声から偶然生まれたメニューです。

お客さんのリクエストは、自分たちにとっては新しい発見になります。お客さんが求めているもののうち、2人だけで考えて出せるものは、100あるうちの10~20くらいで、残りの80~90は外の人から取り入れないと絶対に出てこないものです。

そういった意味では、「奏」という名前のように、お客さんと一緒に奏でられるところかなと思っています。

ー価格の安いメニューも多いですよね!

豊さん:確かにそれはよく言われます。100円のメニューもありますが、それで値段を上げて儲けようとは思っていないし、それが1つあるだけでお客さんが満足してくれたらいいかなと思っています。ここの八幡野の人って面白くて、お客さんなのに「もっと値段上げたら?」っていう人もいるんですよ(笑)。

明子さん:飲みが中心のお客さんはあまり食べないので、「小鉢三つください」って言う人もいます。それでお客さん同士で「ここはこういうの出してくれるからいいんだよね」「お前だけだよわがまま言ってるの」って会話を聞いていると、すごく楽しいですね。

豊さん:お酒が飲めない学生のために、「奏焼き」という、お好み焼きのキャベツなどの具材を抜いて薄く焼いて作った400円のメニューも作りました。オープンした当初は高校生の人たちがハマったみたいで、一人で3枚や4枚も食べてくれることもありました。

小さな子を連れたお母さんが、「この子が奏焼き食べたいって言ったので来ました」と来てくれたこともあって、すごく嬉しかったです。そういった言葉には本当に救われます。

奏焼き

ー最後に、今後どのようなお店を目指していきたいですか?

豊さん:「来てよかった」と思ってもらったり、「また来るね」って言ってもらえることが嬉しいので、お客さんに2度、3度来てもらえるお店になりたいですね。

伊豆高原の中で一番にはならなくても、「伊豆高原に行ったら奏がある」って言われるぐらいにはなりたいなと思っています。

明子さん:私も同じです。お客さんの中には、2件目、3件目でも「家に帰るのはまだ早いし、伊豆高原に来たから、奏に行こう。」って言って、最後にうちに来てくれて、ここで寝ちゃう人もいるんです(笑)。でも、そんなふうに「最後は奏だ」って言ってもらえるような、みんなから愛されるお店が続くといいなと思っています。

今来てくれている子達がもっと大人になったら、また家族で来てくれるかなと思って、それを楽しみにしてあと20年、30年頑張りたいです。

この先、「そういえば昔奏っていうお店があそこにあったけどまだあるかな。行ってみようかな。」って思って来てくれたら嬉しいですね。


Facebookhttps://www.facebook.com/profile.php?id=100045911987728
予約・お問い合わせ0557-53-8057
所在地伊東市八幡野947-418(伊豆高原駅から徒歩5分)
営業時間昼(※土日のみ):11:45~14:30(LO 14:00) 
夜:18:00~翌2:00(入店)
定休日Facebook確認(基本 水曜日、第三木曜日)

インタビューを終えて

感謝の気持ちを大切にされていることがとても印象的でした。

お客に対してだけでなく、奥さんに対しても目の前ではっきりと感謝の気持ちを言葉にできるのは、本当に素敵なことだと思います。時間が経ったり、日常的になったりすると、感謝の気持ちは薄れてしまいがちです。しかし、豊さんはその気持ちを強く、いつまでも持ち続けていました。

それとともに、「やる」と決めたら絶対にやるというエネルギーも強く感じました。ホテルの会社に粘り強く交渉して伊東で働けるようになったことや、6年間という長い間、伊豆高原でお店を出すために準備したことは、強い覚悟がないとできないことです。

自分が信じた道を最後まで貫き通すこと、迷わずに一点に集中することの大切さを感じました。

お店は、価格もリーズナブルで、深夜までやっていて、雰囲気もとっても入りやすいです!メニューも豊富でおいしいものばかりです!(個人的に「ぼんじりと白ネギ」「メンマ」が好きです!がっつり食べたいときはコースもおすすめ!)3月6日からは、土日限定でランチも始まりました。一度行ったらリピートしたくなります。ぜひ一度行ってみてはいかがでしょうか!?

豊さん、明子さん、ありがとうございました!

ぼんじりと白ネギ
とん平焼き
ホルモンライス

タイトルとURLをコピーしました