着物を着る。今日は特別じゃない日。いつでも気軽に着物に触れ合える「しまだきものさんぽの店」代表小澤京子さん

今は、女性が羽ばたくことができる時代。
何歳だってやりたいことを始められるし、歳を重ねるほど人生は面白くなっていく。小澤さんは、女子としてのこれからの人生が楽しみになるお話をしてくれました。

七五三や卒業式、結婚式。特別な記念日には、特別な格好をします。いつもと違う格好をするとなんだか背筋が伸びて、心が浮き立ちます。
特別な日の装いというイメージもある着物は、蚕の命をもらい受け、職人によって丁寧に作られます。親が愛情を込めて子に贈り、数世代に渡って引き継がれることもあります。
しかし、時代の流れと共に自分で着ることができる人が少なくなり、着る機会も減っていき、高価な着物も仕舞い込まれたままになっていたり、二束三文でリサイクルに出されたりすることが増えてきました。

小澤さんは2021年7月に、たくさんの人達に着物に親しんでもらおうと“しまだきものさんぽの会”の仲間達と着物のレンタル・着付け・販売を行うお店をOPENしました。
大切に受け継がれてきた着物を活かしていきたいと、着物の引き取りも行っています。
引き取られた着物は店で次の主を待ったり、貸し出されて人々に喜ばれています。

【奥に見える木のテラスもお仲間の手作り。こちらで飲み物も楽しめます】
【たくさんの着物が!ここから選べるなんてわくわくしますね】
【販売も行っています。意外とリーズナブルなものも!】

小澤さん達は着物を着た時のワクワクをもっと気軽に味わってほしいと考え、フルセットのレンタルや着付け以外にもさまざまな選択肢を用意しています。
羽織だけならワンコインでレンタルできるようにしたり、着物関連の小物販売をしたり、近所の人にも気軽に寄って欲しいと、ギャラリースペースの貸し出しや縁側カフェとしてのドリンク提供も行っています。

持ち込みの着物の着付けや、着方のアドバイスも行っています。以前、タンスに眠っていたピンクの小紋を、若すぎるからもう着られないと寄付しに来た方に、帯を工夫したらどうかとアドバイスをしたら、まだ着ることができるかも、と持ち帰ったことがあるそうです。着物が主の元で活かされるのであればそれもまた嬉しい。寄付は一つの方法でしかないのです。

【ギャラリースペースです。この時は着物の帯を使った椅子の展示を行っていました】


しまだきものさんぽの会は元々、着物好きが着物を着て散策を楽しむ趣味の会。徐々に行き場の無い着物が手元に集まり、市内で行われるイベントで場所を借りて貸し出しと着付けを行うようになりました。

着物が沢山集まりすぎて、着物を広げて保管しながら着付けもできる場所が欲しくなり、物件を探したところ、東海道の宿場町であり今もその風情を残す川越し街道の空き家と巡り合い、お店を開くことになりました。

【広い着付けスペース】
【江戸の風情を残す川越し街道】

仲間達と念願だったお店を始めた小澤さんは、その前にも、カフェ&レンタルスペースラ・ミニョンを開業するという夢を叶えています。
小澤さんが夢を叶えていく中で大切にしてきたのは、可能性を信じること。

以前の小澤さんは、やりたいことも無い普通の会社員でした。孫が生まれて世話をしたいと、経理をしていた会社を退職したのは55歳の時。
今はすらりとした着物の立ち姿の美しい小澤さんですが、退職したての頃は太っていて、痩せるために耳つぼセラピーを学びました。
セラピーの先生や仲間達がバリバリ働いている姿を見ているうちに、自分もあんな風にキラキラ輝きたいと思う様になりました。
「みんなで集まって話ができるスペースが欲しいね」と言っていた時、市の補助金をもらって起業できるという話を聞き、事業計画を立てることにしました。
結局、補助金はもらえませんでしたが、計画を立てるうちにワクワクが止まらなくなり、借金をして60歳でラ・ミニョンを始めました。

なぜそんな思い切った決断ができたのか。
それは小澤さんが自分の可能性を信じたからでした。
以前は自分のために動けない、自分を信じられない自分が嫌いでした。自分だけが我慢すれば上手くいくのだからと思い、我慢した分愚痴を言う日々。

自分の口から出る言葉、コトダマには力があります。自分を信じて、愛するようになると、不思議と前向きな仲間達と巡り合うようになりました。
今は仲間達と話をする時間が楽しくて、そんな時間を過ごせている自分も好きだと思えます。

挑戦する中でさらに失敗への怖さが無くなってきたと小澤さんは言います。挑戦して出来た時に自信は後から付いてきます。何より、一人では出来ないこともあるけれど、頼れる仲間達が居るのです。

高校時代、小澤さんは休学した後に1年4か月入院生活を経験しました。そんな辛さを乗り越えたからこそ今のご褒美の人生があるのかもしれません。賛否両論あるかもしれないけれど、人生は一生を通じてみんなプラスマイナスで平等にできている。今苦労している人はその分きっといいことが起こる。そう思えば辛い事も乗り切れる気がします。

“50代は良い。60代はもっと良いわよ“という先輩たちの言葉がようやく実感できたし、80代の義母が現役で仕事をしているのを見ると、さらに歳を重ねたらどこまで楽しくなっちゃうんだろうとワクワクしているという小澤さん。
次は川根の観光地にもお店を作って着物を楽しんでもらいたい。商店街も着物の人が歩いて昔のようににぎやかになったらいい。
少しずつ夢が叶って来たから、今度も叶うかもしれないと小澤さんは次の夢を語ります

【着物姿のすてきな小澤さん】

自分はダメだ。自分にはできない。そう思ったらあえて「自分にはできる」と正反対のことを口に出して言ってみましょう。
それは、今は嘘でも本当でもないけれど。小さな、自分にしか聞こえないつぶやきかもしれないけれど。
きっと自分の心は少しずつ、口に出した言葉の通りに変わっていく。
自分の言葉を変える。誰でもできることですが、実際にそうやって夢を叶えていった小澤さんの姿が、私達に勇気を与えてくれます。

【編集後記】
小澤さんは初めてお会いする私のインタビューを快く受けてくださって「お店を出すちょうど良いタイミング」とさえ言ってくださいました。ああ、きっとこういう言葉がこの人のもとにちょうど良いタイミングで必要なものを引き寄せているんだなと感じました。お話をしていると、これからが楽しみで仕方がないし、着物も仲間も大好きなんだというのが伝わってきました。歳を取ると体が動かないし、頭にも物事が入らないし、などネガティブなイメージが強かった私ですが、小澤さんと話していると、自分だってこの先の未来も素敵なものにできるに違いないと、元気が沸いてきました。
人生はプラスマイナスでゼロになるというのは、同じ出来事があっても、今までに辛い思いをした人のほうがその幸せをちゃんと感じることができるということかもしれないと思いました。当たり前が当たり前じゃなくなる時にしか、その大事さには気が付かないものかもしれません。
今回お店がオープンした場所は、私が幼いころから遊んでいたご近所さん。小澤さん達がこの場所を通り過ぎてゆく観光客だけではなく、周りに住む人達にも目を向けてくれていることを嬉しく思います。どんなに歴史があれど、住んでいる人が愛していないまちを、観光でやってきた他の土地の人が愛してくれる訳が無いのですから。

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