何かに挑戦することって、怖くないですか?時には、失敗することが怖くて、動くことをためらってしまったこともあるかもしれません。
今回ご紹介するのは、「おおむろ軽食堂」や陶芸体験ができる「陶芸工房えんのかま」、土日月限定でオープンしているバー「ArtとBarFill」を経営されている、清水裕恵ひろえさんです。「ArtとBarFILL」は、ひろえさんの器の作品が展示してあるギャラリースペースでオープンしています。それだけでなく、ひろえさんは、このスペースを子ども達の教える場や、レストランなどとしても貸し出し、挑戦する人への手助けもされています。
そこまで幅広く働かれているので、失敗を恐れない強いメンタルの持ち主だと思われるかもしれません。しかしそこには、今でも自分の恐怖心に向き合い、必死で前に進み続けている姿がありました。
「現在やられている、『えんのかま』『おおむろ軽食堂』『ArtとBarFill』はどのような経緯で始めるようになったんですか?」
私は幼いころから食べることが大好きで、クリスマスになると必ず料理の本を買ってくれる親戚のおばちゃんがいました。その本を見ながらクレープやクッキーを作ったことがスタートです。それで、料理を作ることが好きになって、いつもの料理をアレンジしたりして、勉強していきました。ほぼ独学です。
それから料理を盛り付ける器が欲しくなって探したんだけど、好きなものが無かった。それで、「自分で作れたらいいな」って思って陶芸のお仕事に就くようになったんです。そこからは陶芸が楽しくなって、勉強や手伝いに行って、どんどんはまっていって、独立して陶芸のお店を始めました。
そのお店には友達が来ることも多かったので、料理も出してたら、「料理が上手なんだから料理屋さんやんなよ!」ってみんなに言われました。実際、陶芸を始めるきっかけになったのも料理が好きだったからだし、ちょうど「大室山のところが空くからやりな」って言ってくれる友達がいたから、8年前に「おおむろ軽食堂」がスタートしました。
そのあと、4,5年前に「えんのかま」がスタートしました。おおむろ軽食堂をやりつつ、えんのかまをやりつつ、なんとか頑張って、飛ばしながらやってきました。
「動くときにためらいは無いですか?」
ためらいはありますね。それに不安だし恐怖です。おおむろ軽食堂やるときも、どういう風にお料理出そうとか、どういうコンセプトにしようとか。夜中に不安で目が覚めたり、吐きそうになることも当たり前にありました。
オープンするときも、たくさん人が来てうまく回らないと、「あそこすごい待たされるよね」って絶対言われるので、絶対にそうならないように気を付けました。だから、人が増えてきたら、すぐクローズにして、本当にビビりながらやってきた。それも、ご飯屋さん経営したことないし、初めてのことだったので。
すぐにお客さんも来るわけじゃないから、今は当たり前にみんなにまかない出すけど、最初は、働いている人には自分でお弁当を持ってきてもらっていました。最初の人たちは大変だったと思います。当たり前にお客さんが来ない日もありました。そうすると、「誰かうちのお店の悪口行ってるんじゃないかな」って当たり前のようにびくびくします。
でも耐えました。耐えて待ってたし、自分がとりあえず頑張ってやりました。それを休まずやっていくと、だんだんお客さんがついてきてくれたり、口コミもいいこと書いてくれる人が増えてくれたかなと思っています。
でも、へらへらこんな風にしてるようでも、いつでも不安ですよ。ドキドキはしているし。
「今もそうですか?」
今もそうです。「はぁ、、」ってなります。今回のコロナでは、お客さんが突然来なくなって、うちもすごい大変でした。従業員を守ってあげなきゃいけないけどお客さんは来ない。何かできないかって思って、ギャラリーとして使っていたこの場所で、まずビーガンのお弁当屋さんをやりました。取りこぼしがないように、どう動いていくべきかなとか、こうなったらどこにアプローチしていくべきなのか、その中でリスクを冒さないためにどうするのかとか。ずーっと頭の中では考えています。結構自分では鞭を打ってるかもしれないです。はたから見るとすごく楽しそうにいきいきと色々やってるように見えるかもしれないけど、けっこうぼろぼろ、ドロドロになりながら働いています。
進んでいく人は、「強い」「自信がある」ってことではありません。大人たちでどっしり構えているような人でも、多分当たり前にビビってるだろうし、当たり前に不安を感じている人はいる。だけど、かっこ悪いし、プライドが高いから、出さないようにしていることのほうが多いだけです。だからこそ、不安でも進んでみてもいいんじゃないかなって思います。
「そう思う人は多い一方で、ひろえさんみたいに動ける人って、ごく少数なんじゃないかなって思うのですが、どうしたらそんなに動けるようになると思いますか?」
性格もあるんでしょうね。止まってたら不安で、逆に死んじゃうんだと思います。
商売って、「これでいいや」ってところで止まってたら衰退していってしまうことのほうが多くて、何もしないで上がって行くことってほとんどありません。だから、「これが正しい」って決めるんじゃなくて、「もっと何かないかな」「もっといいこと考えていかなきゃな」って考えていったら、そうなりました。
「動かないでいる不安の方が、動いた時の不安よりも大きいですか?」
そう。大きいんだと思います。
でも、石橋を叩いて渡るタイプだから、そんなに無茶はしないかな。最初にお店を始めるときも、車を買ったと思ったつもりで借金しました。300万400万の高級車買う人もいるし、それも何年ローンで帰せる。そう自分に言い聞かせて、たとえこれで失敗しても、しっかり働けば返せるなってことまで考えて借金しました。だから、無茶をやってきたわけでも、親が金持ちだったわけでも、何かに恵まれていたわけでもなんでもないです。
最初に始めたときには、「いつやってるのかわからない」って思われたら、お宿に紹介してもらえないから、お店を休むのも怖かったです。「えんのかま」は、その臆病な気持ちから、年中無休で休まずに、1年間ずっと働いていました。そしたら11か月くらいである程度軌道に乗ってきて、社員やパートさんを入れたりできるようになって、ちょっとずつ自分も休みが取れるようになってきました。本当にそんな感じでがんばってきました。
ふわふわしてたらこんなになってたってわけじゃないんですよ。笑
「どうやってやりたいことを広げていったり、仕事として繋げることができたと思いますか?」
最初は、商売に結びつくようには考えられていませんでした。でも、私はもともと、物を作ることはなんでも好きでした。トールペイントを友達のタンスに描いてみたり、洋服も自分で作ったり。ここの壁にコンクリ貼ったり、板を買って机作ったりして、この空間も自分で考えて作りました。
そこから、一個気になるってものに足を踏み入れると、色んな形に転がっていくと思います。私の場合は、自分の器を作りたいと思って陶芸を始めました。だけど、思いの外はまっていって、お店を持ちました。そこから友達が「料理やりなよ」って声かけてくれて、「おおむろ軽食堂」をオープンして、ここまで来ました。そういう風に、失敗してもいいから、動いてれば何かある。だから、何か一個やってみる。それで違えば違ったってわかるし、正しければ正しいってわかる。頭の中で考えてるだけじゃ絶対形にならなくて、動くことで初めて形になります。足りない知識は自分で調べて本開いて学ぶようになって、勝手にやれるようにもなります。そう信じて、私はがんばってきました。
私は、陶芸じゃないところでも仕事を始めたけど、一日で行って辞めてきたことも、二日とか、三日行って辞めたこともあるんです。動いたから「あ、これ嫌いなんだな」とか「向いてないんだな」ってわかって、その時はすぐにやめました。笑
でも、好きなものはこうやって続きました。確かに、「石の上にも3年」って言うように、3年我慢しないと見えないものもあるっていうことも一理あると思うから、それはそれで悪いことじゃないと思います。でも、「違ったな」って思って、すぐ辞めるのも悪いことだとは思いません。ただし、だらだらせずに、すぐに次を探していくべきです。
「辞めるのは難しいですよね。自分だったら、辞めたときのリスクとか考えて、それだったらそのままいようかなとか思っちゃいます。」
じゃあ、辞めずに今やれるような、こういう(静岡のつどいのような)活動でいいんじゃないですか?それで新しい出会い、繋がりが出来ていって、辞めるのが怖くないくらい形になった時に、動けるようになると思う。私も臆病だから、何にもない状態で辞めて、いいかどうかわらからないことをいきなりやるのは怖いし、生活どうするのって思います。
だから、何かやるときは、今の環境は保ちながら、自分でそれよりもさらに何かに時間を使うことが必要です。この私ですら、朝の6時から夜中の12時まで仕事して頑張ってるんだからね!頑張れるよ!笑
「そんなに忙しいんですか!?」
えんのかまにお客さんが来て器を作ると、次の日にその器の底を削るんだけど、オープンが9時30分だから、それまでに終わらせなければいけないんです。一個2、3分で何十人分もの底を削るとしたら、そこから逆算して夏は当たり前に5時6時から仕事に入ります。
だからここ(ArtとBarFill)は土日月の三日しかやっていません。毎日は死んじゃうから。笑
特に土日月の三日間は、「えんのかま」も「おおむろ軽食堂」も忙しいんです。それだったらぶっ通しで「ArtとBarFill」まで頑張ろうと思ってやっています。平日はちゃんと休みを取るときもありますよ。でも、頑張るなら、どうせならそこまで頑張っちゃおうかなって思っています。
「器やこういう空間は、どういう発想で作るんですか?」
頭の中でイメージはしていますね。
器の場合は、どう盛ったらかっこいいかな、おいしそうかなって想像してますかね。先に器を作ってから、盛り付けを想像するときと、料理を作ってから「こういう器が欲しいな」っていうのと、どっちもあります。イメージが膨らんでいくんです。


「論理的に考えているんですか?こういう風だったら、こうみたいな。」
そんなかちってしてないんですよね。そこが私のこの適当さなんだと思います。なんとなくふわっと。でも、考えてないわけではないですよ。笑
陶芸って、何もないところに土を引いて作るんですよ。なので、作りながら、頭の中のイメージを、絵を描くように形にしていってるのかもしれないです。イメージを形にするのって難しいので、説明も難しいですね。笑 勢いで、イメージで、パーッと作れる時もあります。でも、私はすごく神経質なところもあって、何回も手を入れすぎてしまうこともあります。
「そういう感性って、どうやって磨くんですか?」
磨かれてる自信がないからビビっているんだけど、、、美術館も行くし本も読むし、いいなって思うものはもっと見るようにしています。何回も行くと、違って見えることがあって、好きなものが変わっていることもあります。
「メモ取ったりして回るんですか?」
全然そんなことしないです。感覚だけです。何も持たないで感覚で見るのも面白いけど、おぎやはぎと山田五郎が出てるテレビ(ぶらぶら美術・博物館)ような、美術館、博物館を解説を見てから行くとまた違った見方が出来たりするから、説明きっちり聞きながら行くっていうのも楽しいです。あの時代に何でこういう作品になったかっていう、時代背景を考えながら行くこともできます。
人によって楽しみ方が違うと思うけど、私は感覚で観ます。
「いつも大変な思いをしながらも、そんな風に笑顔でいられる理由は何ですか?」
一人の時には落ち込むときもありますよ。もちろん、従業員も社員もいるから考えるときは考えています。でも結局、やりたいことやって働いているから、笑ってるのかなぁ。笑
それと、あんまり深く考え込まないのかもしれないです。
ずっとそれだけ考えて解決するんだったら考えるけど、これ以上考えても変わらないと思ったら、考えるのをやめる。その方法は運動や睡眠など人によってですが、私はお酒を飲みます。そのように「考えない」っていう時間を作らなければ、疲れてしまって、新しいことは生まれません。それに、人間は寝てるときに頭の中を整理するので、疲れたら、飲んで寝ています。
そうすると、完全な答えではないけど、「まぁいいっか」ってなることが結構多くなるから、深く追い詰めないです。それに、私は割と忘れやすい性格なのでよかったです。笑
考えて病むくらいだったら、違うことをしたほうがよくて、そのために私は違うことで動いているのかもしれません。そうすると、全然関係ないところで新しい出会いとか、結びつきがあったりします。
人と出会って、こうやって顔を合わせていくと、やっぱり自分が思ってないことが入ってくることってあります。そんな人と会話するのが楽しいって思うし、笑ってるのも楽しい。人が好きなのかもしれないです。
「イライラしたり、怒ったりすることはないですか?」
しますよ。全然知らないでしょ、私の仕事の顔。笑
「えんのかま」も「おおむろ軽食堂」も接客のお仕事で、来てくれたみんなが楽しんでもらいたいわけだから、自分がただ笑ってるだけではお客さんは楽しめません。だから、お客さんを楽しませるためには「後ろにも目をつけてなさい」って従業員に言っています。常に意識していないと、困ってる人がいてもわからないし、ぼーっとしいてたら何もできないからです。
「お客さんや、従業員さんとのコミュニケーションで、意識してることはありますか?」
お客さんに楽しんでもらうことが第一。なので、もちろんある程度の決まりはあるけど、「言葉遣いはこうじゃなきゃいけません」とか、「必ずこういう風にしてください」というものはありません。私は、お客さんが器を作っている上から「下手ですね~。それでいいんですか?直す?笑」ってお客さんに言うときもあるけど、愛を持って、楽しんでもらいたいと思って接しています。なので、私は言葉遣いが下手ですが、お客さんに「嫌だ」って言われたことはほとんどないです。
なので、言葉遣いが標準語とか丁寧語じゃなきゃいけないということは指導してなくて、お客さんが楽しいと思えるような接客をしてくださいって言っています。マニュアルはないです。
教え方もある程度の流れはあるけど、「こうやった方がわかりやすい」っていうのがあったら、それを取り入れてもらって構わない。根本のところを守ってくれれば、自由でいいっていうことと、お客さんが楽しんでくれればいいっていうということを教えています。
「ArtとBarFillを始めて、次にやりたいと思ってることはありますか?」
現在は、このスペースを「ArtとBarFill」として始めたり、シェアキッチンとして貸したりしていますが、そうして動いていくと色んな人の出会いがあって、見えて来るものがあるのかなって思ってます。とりあえずはこの場所を生かして、みんなが好きなもの、やりたいことを実現できるように考えています。「それをやりたい」って言ってる人がいたら、「何でやりたいんだろう」って考えて、サポートする方法を考える。やりたいことを実現できるように手助けすることが私にとっての喜びだし、そうすると、自ずと次の仕事が見えてくると思っています。
今は、観光だけじゃなく、こういう地元の人たちと出会ったり、関わったりする形のお仕事が何かないかなって探している最中です。まだ完全形ではなくて、ずっと探しながら、真面目に昼夜働いてます。
「シェアスペースとして貸し出しているのは、何かやりたいっていう人を支援したいって気持ちがあるんですね!」
自分もそうだったけど、やったことのないことを始めるって、そんなに簡単じゃないんですよね。でも、今の自分は、過去の経験で、少しは流れがわかっているので、サポートしやすというのはあります。そして、サポートするのも勉強だと思っています。
今はお友達や知り合いだから、無料でサポートしてるけど、不安な人にコンサルティングして、オープンまでの流れを作るってことも次の仕事になるかもしれません。こういう風に一個生み出すと、何か変わっていくと思っています。
「ひろえさんは全部一人で始めたので、『周りもがんばれよ』とか、思わないんですか?」
だって怖かったですから。夜どれくらい寝れなかったかなぁってぐらい、吐きそうになったし、うまく回るかなぁってすごくドキドキしたし、すごい緊張と不安があって、本当に、本当に恐ろしかった。だから踏み出すことってなかなかできないんですよね。できれば、手伝ってくれる人がいたら頼みたい。もちろん「頑張れよ」とは思うけど、「少しサポートするから、がんばろう」です。それで、不安がちょっとでも楽になればいいなって思っています。
「最後に、僕たちのような若い世代に期待することを教えてください!」
今、すごいチャンスだと思います。あんまり面倒なことをやろうとせずに、動かない人が多いです。なので、早くそこに気が付いて頑張ってがつがつやれたら、差がすごい出るのになって思ってます。




【インタビューを終えて】
ひろえさんは悩むことも、落ち込むこともあるということがとても印象的でした。「ArtとBarFill」や今回のインタビューでも、終始笑顔で明るく話してくださいました。しかし、その裏では必死に努力して、不安な思いを抱えながら動き続けてるということを知り、今の形は、才能だけでできたことでは、決してないんだなと感じました。
僕たちと同じように、現在でも不安な思いは抱えていました。その中でも勇気を振り絞り、頭を使い、一歩踏み出すかどうか。その繰り返しの積み重ねで、大きく差が生まれるのだと感じました。「自分じゃどうせできない」「今の仕事が大変だから」という言葉は、ひろえさんにとっては言い訳なんだと思います。やりたいことが出てきたら、それをどう実現するのか考える。そして、自分に与えられた時間を最大限使って努力する。そのサイクルを回すことで、自分の可能性は無限に広げられるんだと思いました。
さらに、「自分が不安だったから、挑戦する人のその不安を少しでも軽減できるように」という思いから、周りの人のサポートをされているのは、本当にすごいことだと思います。「お前も頑張れよ」と思わずに、一緒に頑張って前に進めるようにサポートする。その姿勢があると、ひろえさんが過去に頑張った分、支援してもらう人たちの負担は軽減し、その分世界全体が前に進んでいくはずです。
ひろえさんの、不安でも動き続けている姿勢、挑戦する人への共感する姿勢に、勇気をもらうことができました。ひろえさん、ありがとうございました!
基本情報 | リンク | 営業時間 |
陶芸工房えんのかま | https://ennokama.com/ | 9:30~18:00 年中無休 |
おおむろ軽食堂 | https://ohmuro-lunche.izu-kukan.com/ | 10:00〜16:00 年中無休 (大室山リフト運休日はお休み) (臨時休業等の各種最新情報はSNSを確認) |
ArtとBarFill | https://www.facebook.com/ArtBarFILL/ | 19:00~24:00(LO,23:00) 土日月のみ |